大谷資料館内「大谷石地下採掘場跡」
一般の人々の目に触れることなく「未知なる空間」と呼ばれていた地下採掘場跡。
戦時中は地下倉庫や軍事工場として、戦後は政府米の貯蔵庫として使用されていた採掘場跡が、現在は観光用として公開されています。
地上部分は資料館となっており、採掘場当時の機材などを展示。
宇都宮の文化的施設として知られています。
大谷石の採掘は、江戸時代の中期頃から始まったといわれています。
昔は松明を照明に手作業で切り出した大谷石を、人が背負いながら木製の足場を登っていたといいます。
幾多の大事故があったことも容易に想像がつくでしょう。
それでも絶えることなく、大谷石は長い年月をかけてコツコツと切り出されて各地に運ばれていき、こうして少しずつ採掘場が広くなっていったのでしょう。
狭い階段を降りるとそこは壮大な空間。
その広さは実に2万平方メートル(140mx150mの広さになります。
ちなみに深さの平均は30m、最深部は60mにも及びます)。
吐く息を白く変える平均八度の気温と、彼方にこだまする足音に滴る露音、そして古代ローマかはたまた中東の街並みかと思わせる異形の空間は、人間でない何かが宿る特別な場所であるかと錯覚させるほどの荘厳な感覚を訪れる人々に与えるでしょう。
グリッドに仕切られた明らかに人為的な産物でありながら、生物の息づかいや生活臭を一切感じ取ることのできない、「大谷石」という一様な材質で構成されたこの静寂なる空間は、一般的な鍾乳洞とはまた異なり極めて特質。
まさに圧倒的な非日常性です。
地下採掘場跡は(観光地用に多少手が加わっていることもあるでしょうが)当然、建築家やデザイナーの設計作品ではありません。
にもかかわらず、切り出された壁面の構成やダイナミックな上下差、そして天井の開口部の造作や差し込む日光の絶妙さなど、建築としてみても非常に素晴らしいプランニングであるということも注目すべき点です(撮影のために訪れたのが、雨の降る肌寒い平日でした。そのため、他に客もなく採掘場跡に唯一人です。雨音がこだまする非常に味わいの深い場内でした)。
長い歴史と伝統、そこに携わってきた人々の力、そして自然の壮大さ、その全てが揃ってはじめてできあがった非常に希有な例だと言えるでしょう。
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■大谷資料館
■竣工:1979年
■所在地:栃木県宇都宮市大谷町909
■ホームページ:http://www.oya909.co.jp/